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第638話

斗真は、俺が触ることに抵抗がない。 手を握ることも、身体を寄せ合うことも、キスも… その傷付いた全てを俺に委ねてくれているように感じる。 ダニエルは『トーマは大丈夫だ』と断言してくれた。 きっと、ミシェルも同じ立場からアドバイスをしてくれたんだろう。 あの二人に会えてラッキーだった。 過去は振り返らない。 受けた傷は一緒に治していく。 時間は掛かっても。 『時々疼く傷も愛が浸透して癒してくれる』 確かにそうだ。 俺は俺の愛の全てで斗真を包んでやりたい。 ただ、それだけなんだ。 切なく愛おしくはち切れそうなこの思い… 「…希…ありがとう…」 斗真が俺の手にその手を重ねてきた。 「斗真、愛してるよ。今までもこれからも、ずっと。」 重ねられた手の上に、また俺の手を乗せた。 微かに震える手を撫でてやる。 また…泣いてるのか?泣き虫め。 思う存分、泣けばいい。 ぐずぐずと鼻を鳴らす斗真を抱きしめていると、ノックの音がした。 「どうぞ。」 「お待たせいたしました。こちらレシートとお釣りです。 お確かめ下さい。」 「ありがとう。君の心遣いに感謝します。 お陰でゆっくりと楽しめました。 本当にありがとう。」 ウェイターは擽ったそうに笑いながら 「喜んでいただけたならうれしいです。 またのお越しをお待ちしています。」 ありがとうございました!という元気の良い声を背中に受けて、斗真と店を出た。 勿論、手は繋いだままで。 「ご馳走様。良い店だったね。 美味かったし、サービスも良かった。」 「斗真、ちゃんと食べたのか?腹一杯になったのか?」 「あぁ。だって、次から次へと、お前が口の中に突っ込んでくるから… でも…ありがとう。」 「お前だって口一杯に放り込んできたじゃん。 お相子(あいこ)だよ。」 それもそうだ、と斗真がくすくす笑う。

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