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第639話

俺が持っている紙袋をチラチラ見ながら 「なぁ、それって何のスイーツ?杏仁豆腐?ケーキ? メニューにいくつか載ってたよな…」 「だから、後のお楽しみって言っただろ? 今分かったら楽しみ減るじゃん。」 えーっ と膨れる斗真の頬を(つつ)いて揶揄っているうちに、部屋に到着した。 はい、と斗真に紙袋を渡すと、うれしそうに開け始めた。 その間にバスタブに湯を張る。 「希!どれ食べる?」 「どれって…全部食べたいんだろ?」 「何で分かる?」 「顔に書いてあるから。」 「嘘っ…でも…どれ?」 「くくっ…一応聞いてくれるのか… じゃあ、杏仁豆腐ひと口くれよ。それでいい。」 「マジ?じゃあ、もう少ししたらコーヒー入れよう! インスタントしかないけどな。」 相変わらず甘い物に目がないんだな。 お持ち帰りに選んだのは、杏仁豆腐とアップルパイとガトーショコラ。 斗真は、かちゃかちゃと音を立てながら、カップをセットしている。 「斗真。」 「何?」 「一緒に風呂入ろう。」 「…え…」 斗真の手が止まった。 「嫌か?」 「…嫌、じゃない…けど…」 「『けど』?」 「…お前が、嫌じゃないのか?」 「どうして?」 「『どうして』って…だって…」 「俺は嫌じゃない。 俺がお前をリセットしてやる。 外も中も。 斗真、おいで。」 俺は…賭けに出たのだ。 このまま時間を置いても、時間が経てば経つ程、生真面目な斗真はあれこれと余計なことを考えるはず。 ならば、傷が深い内に…俺で全て満たしてやろう…そう考えたのだ。 「斗真。愛してる。おいで。」

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