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第643話

思いを込めて愛しい名を呼ぶ。 「斗真…」 びく 斗真が少し身体を引いた。 それでも視線は外されていない。 「斗真。」 もう一度優しく名前を呼んだ。 潤んだ瞳が揺れ始めた。 畳み掛けるようにもう一度。 「斗真。」 ぽろっ 零れ落ちる涙を拭いもせず、斗真が俺を見つめている。 睫毛に水の玉が光る。 「斗真、愛してる。一生離れるな。」 少し間をおいて…斗真の手が、ゆっくりと俺の手に重なる。 その両手は震えていた。 「…こんな俺を…一生側に置いてくれるのか?」 掠れた声が胸を打つ。 「何度でも言ってきただろ? 『嫌がられてもお前の側を一生離れない』って。 諦めろ、斗真。 お前は俺のものだし、俺はお前のものだ。」 顔を歪めた斗真が飛びついてきた。 俺は斗真を思いの丈を込めて抱きしめ、良かった…と呟き安堵の息を吐いた。 一瞬、斗真は俺の背中に回した手を緩めたが、再び力を込めてきた。 この温もりを絶対に離さない。 斗真の痛みも全て俺が背負っていく。 だから 心配せずにこうして抱きしめ合おう。 「…冷えてきたな…風邪引くと困るから、あったまろう。」 そっと身体を離し、手を引いてバスタブへ連れて行く。 大人が二人入っても十分なサイズはありがたかった。 後ろから抱え込むように浸かると、その身体を俺にもたれるように誘導する。 斗真はもう、抵抗しない。 「…温かい…お湯も、お前も…」 ボソリと斗真が呟いた。 「当たり前だろ?俺は『温かい』より『熱い』ぞ。」 くっくっと喉で笑うと、斗真の顎を掴んでキスをした。 「…その言い方、何かヤラシイ。」 斗真は、くふんと笑うと、唐突に叫んだ。 「ケーキ食べたい!」 ははっ 「…じゃあ、上がろうか。」 もう少しこの体勢を満喫したかったんだが… 斗真の望みを叶えるべく、風呂から上がった。

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