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第644話

バスタオルで粗方拭いて、バスローブを着せてやり、髪の毛もわしゃわしゃと水分を取った後、ドライヤーをかけてやる。 斗真は、鏡越しに俺の姿をじっと見ている。 「どうした?熱いか?」 ふるふると首を振ると 「介護みたい。」 と、笑い出した。 「どうせ何十年か後にも、こうやってるよ。」 そう言って笑うと、斗真は一瞬真顔になり 「そうか…そうだな…」 と、呟いた。 「ほら、次は俺の番。」 斗真を押し退けて椅子に座ると、ドライヤーを差し出した。 黙って受け取った斗真は、ゆるゆると俺の髪の毛を乾かしてくれた。 かちりとドライヤーのスイッチを切り、俺の髪をセットしていた斗真の手が不意に止まった。 鏡越しに視線が絡み合う。 また潤んでいる瞳を確認した俺は、斗真の両腕を引っ張り、膝の上に座らせ向かい合わせになった。 「何回でも言うぞ。よく聞いておけ。 じじいになっても…ずっと、ずっと一緒だ。 介護が必要な時は頼むよ。」 ぷっ どちらからともなく吹き出した。 お互いの背中を叩き合い、涙が出るくらいに笑う。 「…ひっ…はぁっ…自分で言って何だけど…“じじい”は…あんまりだよなぁ…」 「…想像したくない…けど…」 斗真が、唇にそっとキスを落とし呟いた。 「それも悪くない。」 俺は斗真の目を見つめ、唇の動きだけで 『アイシテル』 と呟くと、唇を重ねた。 次第にそれは、触れるだけから、噛みつくような激しいものに変わっていった。 息が上がり、はぁはぁと熱い吐息が絡み合う。 ぐちゅぬちゅと淫猥な音が洗面所に響き、口の端から零れ落ちる唾液は、もはやどちらのものか分からないくらいに混じり合っていた。 滴り落ちるそれを舌先で掬い上げ舐め上げては、また舌を絡めて吸い合う。 『口吸い』とは上手く言ったものだと、頭の何処かで考えていた。

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