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第648話

side:斗真 怖かった。 本当は。 身体に触れられることも、ハグも、キスも、全て怖かった。 愛おしげに見つめられることすら。 そして 希に対して、そんな気持ちを持つ自分が嫌だった。 愛する相手に触れられることも触れることも辛いなんて。 俺達はヤマアラシの番になってしまったんだろうか。 襲われた時、矢田の時のことがフラッシュバックして動けなくなり、抵抗する力が失せそうになった。 助けられて…それでも…ただ震えて、差し出された温かな腕に縋るしかなかった。 ただ、その温もりに包まれ、忘れたかった。 あれだけ気を付けるように言われていたのに。 希以外の奴に、いいように嬲られて辱められ、暴言を吐かれて。 (すんで)の所で、俺は希を裏切らずに済んだ。 あの時、助けてもらえてなかったら、俺は…どうなっていたんだろうか。 俺の手を身体を 希が抱きしめて包んでくれている。 時折、労わるように髪を撫で、指を絡めてくる。 愛おしむようなキスが顔のあちこちに降ってくる。 唇へはそっと、優しく。 じわりじわりとその温かさが身体に染み込んできた。 側にいてもいいのか? 俺、二度も襲われたんだぞ? 希しか晒したことのない場所を見られて触られたんだぞ? 助けてもらえなかったら、希しか入ったことのないナカも犯されてたんだぞ? 見られて触られて…俺、汚れてる…… それでも…いいのか? お前の横で笑っててもいいのか? 何度も何度も繰り返し繰り返し、頭の中でぐるぐると自問が巡っている。 事情聴取の時も、どうしても一緒にいてほしかった。 何があったのか、希は口にはしないが知りたいに違いない。 記憶が定かなうちに、何があったのか全て知っていてほしかった。 …時間を置いて、同じことを告げる勇気もなかった。 『隠し事はしない』 俺達のルールだから。

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