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第649話

黙って聞いている希も辛かったと思う。 恐らく…怒りで震えていた。 ミシェルに言われた。 「傷は癒えるけれど消えない。 それは…現実。過去には戻れない。 でも、それは時間と愛が解決してくれる。 必ず。 だから心配しないで。 今は辛くて悲しくて…泣きたい時には泣けばいいの。 泣いてもいいけど、彼の腕の中で泣きなさい。 そして 思いっきり愛し合って。 あなた達は大丈夫。 トーマ、チャンスから逃げてはダメよ。 ノゾミはあなたから絶対に逃げたりしない。 腕を広げて…あなたを受け止めてくれる。 受けた痛みを一緒に感じて癒してくれるわ。 あなたが見つめるのは未来。 愛する人と真っ直ぐに…」 チャンス… 希はずっと与えてくれてる。 言葉で。態度で。 委ねていいのだろうか。 こんな俺を。 俺のことを『汚い』って思わないのか? 戸惑いと怖れに揺れる瞳を希はしっかりと見つめている。 「斗真、俺だけを見ろ。 愛してる。お前だけを愛してるんだ。」 心地いい愛の言葉。 希は躊躇なく俺を抱きしめ、キスを繰り返す。 包み込まれ、伝わる体温と大好きな匂い。 このままでいたい。 側にいたい。 一生離れたくない。この手をこの腕を離したくない。 「斗真、愛してるよ。」 紡がれる希の言葉に、その瞳の強さに、嘘はない。 繰り返される言葉に、少しずつ心が開いていく。 俺だって。 俺だって、お前を愛することは誰にも負けない。 お前を愛することにかけては、この世で俺が一番なんだ。 目を閉じて希を感じる。 ひたすらに俺を思ってくれるその愛を感じる。 とくとくと規則正しく打つ鼓動が、俺のとリンクして…『生きてる』って感じる。 生きてていいんだよな? お前と一緒に… 希、愛してる。

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