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第659話
「俺達の家なんてそれなりの広さはあると思ってたけど、ここと比べたら完全にマッチ箱だよな。
今度日本に来たら、あまりの狭さにびっくりするよ。
見て笑わないでくれよな。」
「ははっ。ノゾミ、大丈夫だよ。
住宅事情が違うんだから。
ねぇ、トーマ。アルバム見る?
ノゾミの写真も沢山あるんだよ。」
「ホント?見たい!」
ユータが、恐らく準備してくれてたんだろう、何冊ものアルバムを持ってきた。
「これはね、ノゾミがアメリカに来たばかりの頃…こっちはハイスクール、これは大学…」
「ありがとう…」
斗真はそれらを受け取ると、食い入るように1ページずつ、ゆっくりとめくっていった。
その一枚一枚にユータ達が解説している。
この時はこんなことがあって…
これはキャンプの…
こっちは受験真っ只中で…
あ、これは先生をやり込めた時の…
その度に笑って笑って…お腹が捩れるかと思うくらいに大笑いした。
中には暴露めいた話題もあって、斗真の視線が冷ややかになった瞬間もあったけれど。
笑い過ぎて目尻に溜まった涙を拭き、斗真を見ると、アルバムを胸に抱えて真顔になっていた。
「斗真?」
ゆっくりと顔を上げた斗真は、寂しそうにポツリと呟いた。
「…俺も…俺も希達と一緒に、この中に収まりたかったな…」
「斗真…」
「トーマ!
俺達だって、トーマと一緒に過ごしたかったよ。
きっとあの時よりも、もっと楽しくバカみたいに遊べたと思う。
でも、トーマだけしか知らない希と、これから沢山出会っていけるだろ?
それに、今は『love』があるじゃないか。」
ふふん と得意気にマイクが言った。
その肩をユータがそっと抱き寄せて…こめかみにキスをした。
それを見た斗真は微笑んだ。
まるでこの世の慈愛を全て与えるように。
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