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第665話

名残惜しかったが暇乞いをし、タクシーを呼び掛けた俺達に、『遠慮するな』と二人が駅まで送ってくれることになった。 「ユータ、マイク、本当にありがとう。 甘えて楽しませてもらったよ。 また…会おう!次は日本で…」 斗真も『ありがとう』『絶対に来てね』等と言いながら、二人とハグしていた。 ユータが耳元でささやいた。 「“あのこと”は俺達に任せてくれ。」 俺は無言で頷くと、彼の腕をバシバシ叩いた。 「よろしく頼む。 …本当に世話になったよ…ありがとう。」 何度も何度もハグと握手を繰り返し、車が見えなくなるまで手を振った。 「…行っちゃったな…」 「…うん。もっと二人と話したかったな。」 「また会えるさ!今度は日本で…」 「そうだな。 それより斗真、身体、大丈夫か? 兄貴のとこは無理しなくていいんだぞ。」 「何言ってんの?目的の一つは“それ”だよ! …お義父さんにもちゃんと挨拶しなきゃ!だし。 俺、そんなヤワじゃないから心配しないで。」 ほらほら、と急き立てられるようにタクシーの順番待ちの列についた。 大して待たずに乗り込み、兄貴の住所を告げた。 黙って窓の外を眺める斗真の横顔を見つめる。 何を考えてる? 俺のこと? 名残惜しく別れた二人のこと? …昨日の…こと? 膝の上に置かれた手をそっと握りしめた。 斗真は俺の方を振り返ると ふっ と微笑み、また窓に視線を戻した。 指先が絡め取られる。 少しホッとした。 俺もまた流れる景色を黙って見ていた。 夕闇に包まれる頃、兄貴一家の大歓迎を受けた。 ゲストルームに案内されると、落ち着いたら下りて来るように言われ、笑いながら荷物を解く。 「義姉さん…あのテンション相変わらずだ…」 「『アメリカン』って感じだよな…」

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