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第668話

子供達は口々に『お休みー』とキスとハグをして自分達の部屋に退散して行った。 テーブルには既に酒とツマミの用意がしてあって、それぞれに好きな飲み物を片手に寛いでいた。 「希と飲むのなんて何年振りか…お前達、何飲む?」 親父に聞かれて、そう言えば大学進学と同時に家を出て、親父を酒を飲んだのは就職祝いの席の、あの一回きりだったことを思い出した。 「…今日で二回目…だよな…親父、不義理をして申し訳なかった… 斗真、何がいい?俺は…ワインにしようかな。」 「俺もワインで。」 とくとくとグラスに注がれた深い赤色が、やけに目に付く。 「何殊勝なこと言ってるんだ? 少しは大人になったのか、希ちゃん?」 がはは と笑う親父に切り返した。 「そうだよ。まだまだひよっこだけどな。」 少々むくれながらも、話は次第に親父と兄貴とで、かつて家族だった女性のことになっていった。 義姉さんは気を遣ってくれたのか、斗真の隣に座って何やら小声で話をし始めた。 視界の端に、斗真がびくりと跳ね、顔が青白くなっていくのが見えた。 何!?斗真に何を言った!? 瞬時に殺気立った俺に気付いた斗真が、(大丈夫)と口パクで伝え、ジェシカも頷いていたから、気にしながらも親父達との会話を続けていた。 斗真は時折居心地が悪そうに、もぞもぞと身体を動かしながら、ジェシカと話していたが、しばらく彼女の顔をじっと見ていたかと思うと、俯いて肩を震わせ始めた。 ジェシカはその背中を優しく撫で、膝に置かれた斗真の手にそっと手を重ねた。 我慢の限界! 「斗真っ!?」 すっ飛んで行き、ジェシカから奪うようにして斗真を抱きしめた。 顔を上げたその頬には涙が光っていた。 「:義姉さん(ジェシカ)っ!斗真に何を」 「希、違う、違うんだよ!落ち着いて!」 斗真が俺を制して静かに言った。

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