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第669話
斗真は俺の頬に両手を当て
「違う、大丈夫だから。とにかく落ち着いて。
…お義父さん、お義兄さんもご心配なく。
本当に大丈夫ですから。
義姉さんの心遣いがうれしくて…それで…
義姉さん…ありがとうございます。
俺、大丈夫です。」
何が起こったのか分かっていない親父と兄貴は、口々に
「解決したならいいか」
「ま、飲み直そうぜ」
「今度は俺も日本に行こうかな」
なんて、能天気なことを言っていた。
と言うよりも、知っていてワザとそうしていた…というのが後々分かったのだった。
戸惑う俺に、ジェシカが小声で
「ごめんね、ノゾミ。トーマを泣かすつもりなんてなかったの。
昨日の事件…学生時代、あなたに付き纏っていた同級生…あのヤな女よね?
…何があったのか、トーマが全て教えてくれたの。
私も…二十歳の時に同じような辛い目に遭ったから…トーマの気持ちがよく分かる。
誰にも言わないから、安心して。
今は辛いけど…ほら、立ち直って元気に過ごしている見本がここにいるでしょ!?
だから、心配いらない。」
嘘…義姉さんも!?
斗真を見ると、しっかりした目で頷いた。
「…義姉さん…すみません。
辛いことを思い出させてしまって…
勝手に腹を立てて申し訳ありませんでした。」
深々と頭を垂れると、彼女は笑いながら
「いいのよ!
それにしても…ノゾミは本当にトーマを溺愛してるのね!
トーマ、ノゾミの執着に疲れたら、ここに住んでもいいのよ。
ノゾミは日本に置いてきて頂戴。」
ふふふっ と笑う義姉さんにつられて斗真が笑い出した。
その姿を見て、俺も…
「何だ何だ?泣いたり怒ったり笑ったり、忙しい奴らだなぁ。
ほら、飲み直すぞ!」
兄貴に揶揄われながら、痛む胸によく効く薬を塗ってもらったような気持ちになって、また酒を酌み交わし、夜は更けていった。
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