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第689話

荷物を下ろし、親父とジェシカにくれぐれもよろしく、と伝えると、兄貴は笑ってハイタッチして帰って行った。 「さぁ、行くか。」 「うん。」 ゴロゴロとスーツケースを引っ張り、土産物を物色する。 「斗真、これどうだ?」 「あっ、美味しそう…誰のとこ?」 「お前だよ。」 「え?俺?」 「うん。お前に何か甘いもの買ってやろうと思って。他にもあるよ、見てごらん。」 「マジ!?じゃあ…これ、と…これ!」 「オーケー。ちょっと待ってて。」 さっさと会計を済ませて戻ると、斗真はまたあれこれ物欲しそうに見ていた。かわいい奴。 「どうした?まだ欲しい物あるのか?」 「ううん。大丈夫。それ、俺のとこに入るかな…」 「俺のとこにまだスペースあるから入れるよ。 他は…いいか?」 「うん。行こうか。」 早々にチェックインを済ませ身軽になった俺達は、スイートラウンジに案内された。 しばらくして、斗真が 「…いろんなことがあり過ぎて… 希、俺…何かごめんな。」 「何言ってんの!?謝るのは俺の方だよ! 斗真はちっとも悪くないんだ。 謝るのはなし!そう決めただろ?」 「…うん。でも、何か…」 「斗真…お前が何を思おうが、俺は斗真のこと離さない。愛してるよ。」 「…うん。ごめん…ありがとう。」 ぽんぽんと頭を撫で、膝の上に置かれた握り拳にそっと手を添えた。 その手が微かに震えていた。 やっぱり…俺の家でも相当無理して元気に振舞っていたのか。 どうすれば傷付いた斗真を癒してやることができるのか。 どうすればこの落ち込みから救い出すことができるのか。 俺はただ、繋いだ手から俺の思いが伝わるようにと、お互いに黙って搭乗の時間を待っていた。

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