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第690話
長い長いフライトの時間。
行きもそうだったが、ゆったりとした座席は身体への負担も少なくて、機内食も思っていた以上のクオリティで美味く、選んだワインも良かった。
流石ファーストクラスを選んで正解だと自己満足していると、斗真は
「ちょっと贅沢し過ぎじゃないか?」
と心配そうに言うが
「だって新婚旅行だぜ?
一生に一度の贅沢で何が悪いの?
これくらいでビクつくような俺じゃないぞ。」
と言い返すと、斗真は何故か真っ赤になって黙ってしまった。
『新婚旅行』って言葉に反応したのか?
かわいいなぁ、斗真。
早く日本に着かないかな。
家に着いたら、アンナコトやコンナコト…
妄想が膨らむ。
だってアイツは『望むところだ』って言ったもん。
うへへ…顔が緩む。
隣から冷たい視線を感じた。
「希…何か良からぬこと考えてない?」
「いやいや、何も。斗真こそ。」
「…俺は、別に…時差ボケ防止でちょっと寝るよ。お休み。」
「うん、お休み。」
搭乗した時からどことなく機嫌の悪い斗真は、サービスのパジャマに着替え毛布を被った。
その愛おしい寝顔を堪能して、俺も落ちてくる瞼に逆らえず眠りについた。
段々と意識が戻ってくる。
視線を感じて横を向くと、斗真が上から覗き込んで俺を見ていた。
「起きてたの?」
「うん。さっき。」
「…何見てたの?」
「…希。寝てる時も綺麗だなぁ…って、つい。
お前、やっぱイケメンだなぁ。」
俺は斗真の頬をくいくいと引っ張りながら
「お前だって。未だに他の課の女どもから狙われてるの知らないのか?」
「知らない。興味ないもん。」
「…ったく…無自覚にも程がある…」
「だって、希しか見てないから。」
「チッ…そうやって煽る…」
「煽ってないって。本当に…希だけだから。」
小さく呟きながら俯いてしまった斗真の頭を身を乗り出してわしゃわしゃと撫でまくり、隙を見てキスした。
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