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第691話

ひそひそ声で怒られる。 「なっ!?何するんだっ!?」 「んー…あんまりかわいいこと言うから、つい。」 「ばかっ!誰か見てたらどーすんだっ!」 「誰も見てないよ。だってここの客は俺達二人だけじゃん。ごめん、ごめん。」 むうっ と膨れっ面の斗真の頬を撫で、ご機嫌伺いをするが、反対側を向いて俺と顔合わせようとはしなくなった。 あーあ…本格的に怒らせたか… だって斗真、かわいいんだもん。 甘い物でも食べれば、いつもの斗真に戻るだろうか。 そうだ! 俺はそっとCAの元に向かった。 「すみません。」 「はい、遠藤様、如何致しましたか?」 「あの、コーヒーと何かデザートみたいなものって用意できますか?」 「はい、承知致しました。ただ今見繕ってお持ち致します。 お嫌いな物はございますか?」 「いや、大丈夫です。 俺達、実は新婚旅行なんですよ。」 相手が息を飲むのが分かった。 分かっててカムアウトしたんだ。 この女、搭乗してからずっと斗真のことを狙ってる風だったからな。 斗真は全く気付いてなかったが、やけにベタベタしたり、連絡先を聞き出そうとしたりしてたから。 釘刺しとかないと。五寸釘を。 「あら、まぁ、そうだったんですね!? …ではシャンパンのほうがよろしいのでは?」 「いえ、コーヒーで。ではよろしく。」 「承知致しました。」 カーテンの向こうで微かな悲鳴に似た声が聞こえた。 ザマアミロ。 斗真に手を出そうとするヤツは徹底的に俺が潰す。 間もなく運ばれてきたのは、綺麗に盛り付けられたショートケーキとフルーツの盛り合わせだった。 「え!?凄っ。希、いいの?」 「うん。美味しいうちに早く食べな。」 満面の笑みの斗真を見ながら、ちらりとCAを見て「ありがとう」と伝えると、流石そこはプロ。 にっこりと営業スマイルを振りまいて下がっていった。

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