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第694話

慌てて周りを見回し、声を抑えて怒る。 「なっ!?何するんだっ!?」 「んー…あんまりかわいいこと言うから、つい。」 「ばかっ!誰か見てたらどーすんだっ!」 「誰も見てないよ。だってここの客は俺達二人だけじゃん。ごめん、ごめん。」 『ごめんごめん』じゃないだろ!? ばかっ!場所考えろっ! 怒っているはずなのに、恥ずかしさ半分、うれしさ半分。 希は俺のものだからな。 不意打ちのキスにも心が震える。 希の優しい手が俺の頬に触れてくる。 じわりとうれしさが溢れ出しそうになって、バレるのが嫌で、毛布を被って背を向けた。 緩む口元。 最後にキスしてから何時間経ったんだろう。 その僅かな時間すら我慢できなくなっている俺がいる。 いつの間にか…こんなに依存してる。 希は俺の精神安定剤になっている。 希がいないと、俺は… 「お待たせ致しました。コーヒーとデザートをお持ち致しました。」 “デザート”!? その声に反応して起き上がった。 コーヒーの良い香りと、フルーツが盛られたショートケーキが目の前に用意された。 「え!?凄っ。希、いいの?」 「うん。美味しいうちに早く食べな。」 ちらりと視線を横にやると、ドヤ顔の希が笑っている。 本当にコイツは…俺のご機嫌になるツボをしっかりと押さえてるんだから… フルーツは後だな… ケーキをひと口頬張る。 「美味しい…」 「良かった。足りなかったら俺のもやるから。 ふふっ。斗真、かわいい。」 あのな、もぐもぐタイムのウサギやラッコじゃないんだから。 ただの大人の男なんだから。 “かわいい”は止めてくれ。 蕩けるような視線を受けながら、完食した俺の機嫌はすっかり直っていたのだった。

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