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第695話

side:希 年明けを雲の上で、なんて滅多にないシチュエーションに、俺達は二人とも興奮していた。 いつもなら恒例のように一人で歌合戦を見て、各地の除夜の鐘を聞いて、一人寂しく年越し蕎麦を啜っていたのに。 聞くと、斗真も同じだった。 以前も聞いたが帰省もしてなかったらしい。 でも、今年からは違う。 生涯愛するひととずっと一緒。 ちょっと値の張るシャンパンを開け、新年の挨拶とこれからもよろしく、と殊勝な言葉を交わした。 感慨深く思いに耽っていると、斗真の心配そうな瞳が、何か言いたそうに俺を見つめていた。 「これからずっと斗真と一緒に、こうやって二人で年を越せると思ったら、本当にうれしくて、うれしくて…いろんなこと考えてた。」 こくりと無言で頷いた斗真は、そっと目尻を指で拭った。 その跡を親指でなぞるように拭き取ると、少し湿った指先に斗真の愛を感じる。 そのまま手を滑らせて頬に添え 「愛してる」 とささやくと、少し潤んだ瞳が鮮やかに頷いた。 斗真にちょっかいを出しそうなCAを牽制しながら、そいつらの視線もなんのその、それなりにイチャイチャを楽しみながら、とはいえ、斗真には拒否されることも多かったのだが、何とか帰国の途に就いた。 裏技を含めて受けることのできるサービスは全て受け…あ、“新婚旅行だ”と伝えたから、記念品まで遠慮なく貰った。 「長時間お疲れ様でした。 またのご利用をお待ち申し上げております。 本日は誠にありがとうございました。」 通り一遍の挨拶に「ありがとう」と、こちらも営業スマイルを返し、とにかく二人っきりになりたくて、さっさと荷物を受け取り、手続きを済ませると、斗真を追い立ててタクシーに乗り込んだ。

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