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第708話

キッチンからは食欲を誘ういい匂いがしていた。 「希、何作ったの?」 「やっぱり正月は雑煮だろ?餅、三個で足りる? それと、さっきスーパーで買った惣菜で“お(せち)もどき”。 雰囲気だけでもと思って、重箱に詰め直しただけだけどさ。 あとは、めでたいから赤飯炊いてみた。」 「うわっ、美味そう…腹の虫が、ぐうぐう鳴ってる… 赤飯も炊いたのか?じゃあ、三個でいいや。 希、お前はデキた嫁だなぁ。」 「あははっ、嫁かぁ…ビミョー。まぁ、いっか。 もう一つ。斗真が喜ぶやつ。」 「何?」 「ぜんざい!何を差し置いても絶対これは喜ぶと思ってさ。」 「希…」 「ん?気に入らなかった?」 「愛してるよ。」 くっくっくっ。 顔を見合わせて肩を震わせて笑う。 横に並んで座り、途中から何故か食べさせ合いっこになり、大騒ぎしながら完食した。 もちろん、ぜんざいは別腹で。 片付けは俺が引き受けた。 希が『俺がやる』と言って聞かなかったのだが、『せめてそれは俺にさせろ』と、強引に流しを占領したのだ。 それなのに… それなのに、背中にへばり付く、この生き物は何だ!? それに、心なしか下半身をゴリゴリ押し付けられているような気がする。 「…希…」 「はい、何でしょう。」 「背中が重い。動きにくい。」 「俺は気持ち良いよ。」 「そういう問題ではない。離れろ。 やり難くてかなわん。」 「えーっ…だってぇ…」 「終わったら、くっ付いてやるから。 一旦離れろ。」 えー、とか、何でぇ、とか、ブツブツ言いながらも、やっとおんぶおばけが離れてくれた。 ケツに当たってた固いモノは…いや、触れないでおこう。 こんなことなら、アイツに片付けもやらせればよかった…

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