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第709話
残ったおかずは取り敢えずタッパーに移し替えた。
ぜんざいも俺がお代わりしたから、丁度鍋も空っぽになったし、洗い物もやり終えた。
ふとリビングを除くと、希の頭が左右に揺れているのが見えた。
何だ?
あれは…ワクワクして俺を待ってるのか?
何だかおかしくて噴き出しそうになるのをめっちゃ我慢して、ひと呼吸置いてから希の側に行ってやった。
「とーま♡」
「お待たせ。くっ付いても良いけど、腰に負担のかからないようにしてくれ。
ギックリ腰はごめんだよ。」
飛びついて来ようとする希を牽制した。
あ…また耳と尻尾が垂れた。
うーん…そうだ!
「希、おいで。」
希の横に座り、自分の膝をポンポンと叩いて促した。
「『ひ・ざ・ま・く・ら』してやるから、おいで。」
ぽっ と頬を染めた希は(お前は乙女か)、いそいそと横になり俺の膝に頭を乗せると、だらしなく崩れた顔で微笑んだ。
あーあ…イケメン、何処に行った?
これでも、一歩外へ出たら泣く子も黙る営業のエースなのに。
会社の奴らが見たら引くぞ、泣くぞ。
いやいや…こんな姿、俺以外の誰にも見せるつもりはないけどさ。
何を話す訳でもなく、俺は希の頭を撫でてやり、希は俺の空いた片方の手をしっかりと胸に抱え込んで、とにかくくっ付いて、ぼんやりと正月の特番のテレビを眺めていた。
「なぁ、斗真…」
「ん?」
「外、雪降ってる?」
「どうかな。天気予報は雪マークだったけど。
見てみる?」
「うん!」
よいしょ と二人で立ち上がり、手を繋いで窓に向かうとベランダのカーテンを開けた。
「「うわぁ…」」
一面の降りしきる雪は、ベランダにも薄っすらと積もっていた。
いつも階下に見える街並みの明かりも車のサーチライトも、今夜は薄ぼんやりと儚げに視界から消えていた。
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