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第712話

side:希 なーんだ…ホントに寝ちまいやがった。 『希ぃ…大好き…』 むにゃむにゃと呟く斗真がかわいくて、眺めてるうちに、目を(しばたた)かせて、ものの数秒で寝落ちした斗真。 小さな寝息を立ててぐっすりと夢の中だ。 長い睫毛がふるふると震えている。 斗真… あの数日間は、本当に現実だったのかな。 俺には、夢の中の出来事にしか思えない。 いや、無理矢理思い込むようにしているのかもしれない。 斗真はあの事件で、心にも身体にも傷を負った。 俺のせいで。 ボストンに連れて行かなければ良かった。 正直、今でも後悔している。 俺のせいであんな事件に巻き込んでしまった。 カウンセリングを受けて、そして同じような傷を負っていたジェシカからも話を聞いて、斗真が変わったような気がする。 過去を振り向かず、受けた傷は傷として受け止め、前に進もうとしているんだ。 瞳に輝きが戻っていた。 いつものように、俺に甘えて、そして甘やかしてくれる。 斗真は、何事もなかったかのように振舞っているが、実のところどう思ってるんだろう。 本当に大丈夫なんだろうか。 どんな斗真でも受け入れる。 斗真が斗真であればいい。 前に進む斗真を支え、過去のことは済んだこととして後悔しない。 受けた傷は斗真と一緒に昇華させていく。 絶対、絶対に俺が癒してやる。 自分ではそう思って帰国したのに、ふっとした瞬間に自分を責め立てる気持ちが噴き出してくる。 そして、今も…眠る斗真の顔を見ていると、深い自責の念に駆られ胸が潰れそうになる。 斗真…ごめん。 俺のせいで辛い目に合わせてしまった。 頬にそっと指を這わせる。 温かな吐息…斗真、生きてる…

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