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第713話

あの時、斗真がふっと俺の前から消えてしまいそうで怖かった。 逃すまいと視線が斗真をずっと追っていた。 肩を抱き寄せ手を繋ぎ、その温もりで斗真の存在を確認していた。 何処にも行かせない。 誰にも触れさせない。 斗真を傷付けるモノは全て排除する。 そんな思いも渦巻いたが、斗真はいとも容易くそれを乗り越えていた。 痛みを痛みとしてきちんと受け入れたのだ。 その上で一歩前に進み出した。 お前は凄いよ、斗真。 囚われているのは俺の方だったんだ。 お前を“被害者”としか見てなかった。 ただ自分を責め、立ち直るお前のことを信じてなかった。 俺は馬鹿だな。 俺以上に男らしいお前を認めてなかったなんて。 これから先、俺達を傷付ける何かが起こるかもしれない。 そうなっても、俺達はお互いを信じて、真っ直ぐに歩いて行く。 俺には斗真がいればそれでいい。 斗真さえいてくれれば、どんな障害も超えていける自信がある。 強くて優しくてしなやかな心を持つ俺の大切な伴侶。 ちっぽけな情けない俺を許してくれ。 愛してるよ、斗真。 しつこく触る俺の手が煩わしかったのか、斗真が顔を小さく左右に振って、反対側を向いてしまった。 何だよ。 こっち向いてくれよ。 かわいい寝顔が見れないじゃないか。 思わず背中にくっ付いて、頸に唇を寄せた。 しばらくして斗真の声がした。 「希…いい加減に寝かせてくれ。 擽ったい。」 うっ… くるんと寝返りした斗真が、俺を上目遣いで睨んでいた。 「…起きてたのか?…ごめん…」 「うとうとしかけたら、お前が頬っぺたやら耳やら触るから…眠れなくなっちまったじゃないか。 ばか希。」 なーんだ…知ってたのか…

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