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第723話
希の手は遠慮がちに浴槽の縁を掴んでいた。
無言でその両手をガシッと握り縁から外すと、俺の臍の上でクロスさせ、希の肩に頭を乗せて目を閉じた。
あったかくて気持ち良くて…ふうっ と大きく息を吐くと、希が声を掛けてきた。
「…斗真…揶揄ってごめんな…」
「うるさい黙れ。黙って俺を抱きしめてろ。」
つっけんどんに呟くと、はぁーっと 一つ大きく息を吐き希はギュッと腕に力を込めてきた。
そして、首筋をかぷかぷと甘噛みしてくる。
べしっ と頭を叩いても、甘噛みを止めない。
甘えたの大型バカ犬め。
「…とーま…」
やっと甘噛みを止めたと思ったら、今度は水面から出ている肩や胸元まで、ちゅっ ちゅっ と音を立てては吸い付いてくる。
「のーぞーみー…擽ったい。止めろ。」
「…やだ。」
頭を軽く追いやっても、それにもめげずに唇を寄せてくる。
俺を抱きしめ、ひたすらに甘えてくる希を感じていると、何だか腹を立てていたのがバカらしくなって、希の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「…もう、擽ったいし逆上せる。
上がるぞ。」
ぱぁーっ と花が綻んだような笑顔になった希は、いきなり俺を抱き上げて湯船から立ち上がった。
ザバァーーッ
勢い良く跳ね上がったお湯は壁に散り、俺達の身体で堰き止められ腹に溜まったそれらは、少しの隙間を探して希の足元に零れ落ちる。
「下ろせよ。バスマットがびしゃびしゃになるだろ?」
俺に咎められた希は、渋々ドアの手前で下ろすと、残りの湯溜まりがタイルに跳ねた。
素早くドアを開け、恭しい仕草で俺を通すと、ふわりと柔らかなバスタオルに包まれた。
甲斐甲斐しく俺を拭きあげる様がおかしくて、笑いを堪えながらされるがままになっていた。
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