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第724話
ドライヤーで髪の毛もふんわりと整えられ、俺を座らせたまま、希が自分の支度に取り掛かる。
そんなくっ付いてなくても、何処にも逃げたりしないよ。
この前みたいに、行き先も告げずに姿をくらましたりしないから。
行く当てなんてないんだから。行ったって、せいぜいがビジネスホテルだよ。
ここが俺の帰る場所で、お前と暮らしていく所なんだから。
…そんな目で見るなよ。
何を心配してるんだ?
「水。水飲みたい。」
希は、優秀な執事のようにあっと言う間に冷蔵庫から 冷えたボトルを持ってきて、キャップも取って差し出してきた。
躾はバッチリ!
「ありがとう。」
半分くらい飲んで、「お前も飲め」と手渡してやる。
俺を見つめたまま飲み干した希は
「…怒ってない?」
と、ひと言だけ小さな声で聞いてきた。
「ふっ。今更。
腹立つけど、お前はそんなヤツだから。
…こんなくだらないことで、正月から喧嘩なんてしたくないしな。」
「斗真…」
背中から両腕が絡まり纏わり付く。
「…暑い。離れろ。まだ汗が引いてないんだ。
せっかくさっぱりしたのに…少しは考えろ。」
「でも」「だって」等と文句を言いながら少し離れた希は、鏡越しに俺を見つめていた。
その視線は甘く熱く、見つめられて身体がぞわりと震えた。
何気ない風でバスローブを羽織り
「ずぶ濡れのバスローブは洗濯回してこいよ。」
とワザとつっけんどんに言い捨て、寝室へ一人で歩いていく。
「とぉーまぁーー!待ってよぉーー!」
悲しげな駄犬の遠吠えが聞こえるが、無視してバスローブを脱ぐと、布団に潜り込んだ。
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