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第727話

何か言いたげな希の瞳が潤んできた。 どうした? 何を思って泣きそうなんだ? 『愛してる』って言っただろ? 「のーぞーみー?」 触れるだけのキスを唇に落とすと、何も言わずに希が俺の肩に顔を埋めた。 嗚咽を堪えるようなくぐもった声が微かに聞こえてくる。 さっきまで俺を襲わんばかりにご機嫌だったのに、今は泣くのを必死で我慢している…情緒不安定な俺の伴侶。 ひょっとして… “あの時のこと”思い出してる? 俺達の記憶に暗い影を落とした事件。 確かに、自分の存在を全否定した。 俺は希の前から消えてもいいとさえ思った。 でも、ユータやマイク、ミシェル、ダニエルにジェシカを始めとする希の家族。 そして、あの事件に携わって俺達の味方になってくれた大勢の人達。 彼らの助けは勿論、何よりも俺を愛し守り包み込んでくれた希がいたから…俺は前へ一歩踏み出すことができたんだ。 「希…お前は俺の生きる希望。生きる糧なんだよ。 お前を置いて何処にも行かない。 だから、泣かないで。 泣かないで俺にキスして。」 希は顔を上げ、泣き濡れた目で俺を見つめた後、そっと抱きしめ優しくキスをしてきた。 角度を変えながら啄ばむようにして、何度も何度も労わるように、顔中をキスされていく。 しつこいよ、もう。 でも、そのしつこさがうれしい。 顔は満足したのか、耳の後ろを存分に舐める希は、甘い声を上げそうになる俺を堪能したらしく、首筋も舌先でなぞり、鎖骨に吸い付いて跡を残していく。 唇は肌を滑り、舌先で舐められ、指先はしゃぶられて、身体中、希の唾液でベトベトになっていく。 それが嫌だとは全く思えなくて、希の気が済むように身体を差し出していた。

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