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第728話

触れないところがないくらいに、あらゆる場所を舐め尽くされていく。 「希…舌がおかしくなるし腫れるぞ?…それ、もう止めないか?…」 後々のことを考えて止める俺に、希はいやいやと首を振って、舐め、吸い付いては鬱血痕を散らしていく。 「…んっ…希…分かったから… お前、休み明けに唇腫らして出社するつもりか? キスしたいのも分かる。 俺だって気持ちイイ。 でも、ずっとマスクして過ごすわけにはいかないだろ? なぁ、いい子だから、言うこと聞いて… 代わりに、ほら、一杯触ってていいから…な?」 猫を擽るように、喉を何度も優しく摩ってやると、希は暫く俺の顔を見つめていた。 やがて、ふっ と微笑むと 「とぉーまぁー」 と、甘えた声を出して俺の胸に頭を預けてきた。 「…聞こえる…」 「何が?」 「…斗真の心臓の音…斗真、ちゃんと生きてる…」 「…うん。俺はここにいるよ。希の側に。 息をして…話して、お前と愛し合って…ずっと、ずっと側にいるよ。」 やっぱり、まだ不安に思ってたのか。 俺だけじゃない、希の心は傷を負ったままで。 お前のせいじゃない。 あれは、俺達が永遠に愛し合うための試練だったんだ。 幼な子を慈しむように、希の頭を撫でてやる。 『大丈夫、大丈夫だから』と念じながら。 それから何を話す訳でもなく、ただぴったりと隙間のないように引っ付いていた。 まだ僅かに時差ボケが残る頭と身体は、うつらうつらと夢の世界へと(いざな)う。 波が寄せるように、目覚めと微睡(まどろ)みを行ったり来たりしながら、抱き合ったまま過ごし、お腹が空いたら二人でキッチンへ行き調理して食べ、またベッドへ潜り込む。 お互いの肌の感触を確かめながら、セーブしたキスをして、また共に眠る。 外の雪はどうなったのか、世間では何が起きているのか分からないまま、元はひとつの身体だったかのように、ひたすらくっ付いて時を過ごした。

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