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第731話

静まり返った部屋で、俺は亀のようにそっと布団から首を出した。 希…いない… はあっ…と大きく息を吐くと、仰向けになった。 鼻に付く情交の青臭い匂い。 のそのそと起き上がり、カーテンを開けると眩しい日差しが差し込んできた。 思わず目を瞑り、そしてゆっくりと目を開くと、快晴の青空の下、雪景色がキラキラと反射して輝いていた。 「雪、止んだのか…」 ひとり言を言ってバスローブを羽織ると、窓を一気に開けた。 きんと冷えた冬の風が、(ただ)れた部屋の空気を一掃していく。 ぶるりと身体を震わせながらも、その冷たさが心地良くて暫くボンヤリと佇んでいた。 雪だるま、作れるかな… 一階の玄関ポーチの雪を掃除用のバケツに入れて取ってきて、ベランダに置いておこうか。 すぐ溶けちまうだろうけど。 窓を閉め、緩慢な動作で着替え始めた。 いくら館内とは言え、共用部で防犯カメラもあちこちにあるから一応受付に断っておくか。 「希…おい、希!」 キッチンにいるかと思ったのに、影も形もない。 「おーい!」 洗面所も風呂場にも、トイレにもいない。 「どこ行ったんだ?」 不審に思いながらも、バケツを持って一階へ向かった。 コンシェルジュに新年の挨拶と、雪がほしい旨を告げると、彼女は笑いを堪えながら『お好きなだけどうぞ』と快諾してくれた。 バケツ一杯の雪を確保した俺は、意気揚々と部屋へ戻った。 「希ぃ!?」 相変わらず、返事はない。 どこ行ったんだ? 俺が相手にしないから不貞腐れて出掛けたのか? まぁ、いいや。 溶けないうちに作ろぉーっと。

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