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第733話

仲良く寄り添う雪だるま達。 でも、もう少し日差しが強くなれば、ただの水に戻ってしまう。 残るのは、後から付け足した顔のパーツと手だけ。 残らない、残せない。 見ていたら、何だか切なくなってきた。 こんなの、作らなきゃ良かった。 何で作っちゃったんだろう。 「斗真?」 頬を冷たいものが流れていて、それを温かな指の腹で拭われる。 「ほんのひと時でも、この子達は恋人としてこの世に存在してるんだよ。 ひょっとして…俺達を重ね合わせてる?」 目を見張って希を見ると、真っ直ぐに俺を見つめ返してきた。 「この世に何も残さなくても『斗真を愛し続けた』って事実は消えない。 …斗真、愛してるよ。」 目の前の胸に縋り付いた。 強引でエッチで俺様でワガママな俺の伴侶。 でも… 世界中の誰よりも俺のことを一番に考えて、愛して甘やかせてくれる大切なひと。 時折冷たい風が吹く中、穏やかな日差しを浴びながら、俺達は暫く抱き合っていた。 寄り添う雪だるまと一緒に。 「…風邪引くと困る。 コーヒー入れてやるから中に入ろ?」 肩を抱かれて部屋に戻った。 すっかり冷え切ったリビングで毛布に(くる)まれると、そのうちコーヒーのいい香りが充満してきた。 「ほら、斗真。 好きなのから食べろ。全部いいぞ。」 「…俺が糖尿で引っかかってもいいのか!?」 「それは困るけど…毎日じゃないし、日頃の食生活の管理はちゃんとしてるから大丈夫だろ。 ほら。『生きてる』から美味いものだって食べれるんだ。 チョコか、抹茶か?」 「…抹茶…」 希は頷いて皿に取り分け、スプーンでひと匙すくうと俺の口元まで持ってきた。 「はい、斗真、あーーん。」 言われるがまま大きく口を開けると、押し込まれた。 広がる抹茶の甘みと苦味。 「美味しい…」 目の前に微笑む希がいた。

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