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第739話

その日は、何故かよく高橋と視線が合った。 何かモノ言いたげなその瞳は、明らかに“恋するヒト”の目そのものだった。 ま・さ・か 斗真でなくて、俺!? 俺お断りだぞ!!! 何たって、『斗真』という相思相愛の大切な伴侶がいるんだからな! 思い当たる節のないまま、新年の挨拶に全体会議や打ち合わせ、その他諸々の雑用をこなして、その日の仕事を終えた。 定時を待ち兼ねて斗真のデスクに行き、せっついて帰宅を促した。 一刻も早く、斗真を補充したかった。 昨日まであんなにベタベタくっ付いていたのが、急に仕事モードで離れ離れになり、俺は水に飢えた砂漠の砂のように斗真を欲していたのだ。 「斗真、早く帰ろ!」 「おっ、希!もう帰れるのか? 分かった。すぐ支度するから待ってて!」 ぱあっ と満面笑顔になった斗真が、慌てて片付け始めた。 うんうん。うちの斗真はかわいいなぁ。 緩む口元を隠しながら斗真を見ていると 「…あのぉ…すみません…ちょっとお話が…」 高橋だっ! 「何?何か用? 急ぎじゃなければ明日聞くから。」 俺にしては珍しく冷たく言い放つと 「いいえ、仕事のことではなくって、プライベートなことなんですけど…」 「何?チーフに用事? …じゃあ、俺は先に帰ってるから。」 その場から離れようとする斗真の腕を掴んで 「高橋、悪いけど俺達これから出掛けるんだ。 明日聞くから、今日はこれで。」 「!部下が困ってるんだぞ。 話くらい聞いてやれよ。 じゃあな! (美味いもの作って“イイコ”で待ってるから)」 最後の台詞は耳元でささやかれた。 ぶるりと甘い痺れが背中を走った。 バカ斗真。俺は早く帰りたいんだって! 「えっ、いやっ、あの…チーフだけじゃなくって、先輩も…」 「は?俺も?」 斗真と二人顔を見合わせた。

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