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第749話

トーストの焼ける匂い… 斗真?何処?… ゆっくりと瞼を開けると、隣にいたはずの斗真の姿はなく。 不貞腐れた気分のまま起き上がると、キッチンへ向かった。 テーブルには既に焼き立てのトーストとスクランブルエッグにサラダが並んでいた。 斗真はコーヒーをセットしながらいつもと変わらぬ顔で言った。 「希、おはよう。」 「…おはよう。」 「ほら、早く支度して。 いつもより二十分早く家を出なくちゃならない。 今朝ミーティング入ってただろ?」 何だよ。 おはようのキスよりもミーティングかよ。 昨夜だって俺のことを構ってくれなかったくせに。 むくれ顔の俺に気付いたのか、つ…と寄ってきて『おはよ』と言いながら頬にキスをしてきた。 ふん。ばかとーま。 そんなもんじゃ俺の機嫌は直らないんだぞ。 黙りこくって動かない俺に 「希…朝からそんな顔は嫌だ。」 と言い、今度は唇にキスしてきた。 それでも微動だにしない俺に焦れたのか、俺を軽く睨んだ後 「早く食べろよ。」 と声を掛けて、先に食べ始めた。 無言で斗真の正面に座ると、いただきます とぼそりと呟き食べ始めた。 空腹なはずなのに、飲み込めない。 コーヒーで流し込み、何とか半分食べ終えた。 残したことに詫びを入れ、食器を流しに運び、忙しなく洗い物を始めた。 テーブルの端には包んだ弁当箱が二つ。 ちゃんと作ってくれたんだ。 時計の針を気にしながら、洗面所に向かう。 覇気のない顔がそこにあった。 斗真に構ってもらえないくらいでこれか? 俺、そんなに斗真に依存してたんだろうか。 おかしい。メンタルやられてる。 「のーぞーみー! あと十五分で出るぞー!」 斗真の叫ぶ声が聞こえた。 しっかりしろ、希。 こんなんじゃ、斗真に愛想尽かされるぞ。 頬をパチンと叩き無理矢理気合いを入れて、支度に取り掛かった。

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