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第751話
彼が行ってしまった後、斗真の視線がその背中を追っていたのに気が付いた。
斗真はぼそりと
「すげぇ…」
「何が?」
「あのひと…如何にも『体力もテクもあって絶倫です!』って感じで…今日は今まで見た中で、一番フェロモン出しまくってるぞ…
ありゃあ、初心な高橋はひとたまりもないよ。
…明日、普通に出社できればいいんだけどな。」
それを聞いて、むっとした。内心面白くなかった。
斗真はそんなつもりで言ったのではないのだろうが、暗に、あんな『フェロモン出しまくりの男に惹かれてる』と言われたような気がした。
訳もなくイラついた。
斗真はそんな俺のイライラに気が付くこともなく
「あっ、あと十分しかない!チーフ、早く!」
と小走りで先に行ってしまった。
俺は、俄かに芽生えた嫉妬のようなものを抱えたまま、斗真の後に続いた。
俺の斜め前に座った斗真は、俺と目が合うと不思議そうに小首を傾げた。
“何かあったのか?”とでも言いたげな瞳で見つめられ、思わず ふいっ と視線を逸らした。
「おはようございます。
皆さん、お揃いのようなので、今年初めての全体ミーティングを行います!
早速ですが……」
進行役を務める二課の山岡マネージャーが説明を始めたが、全く頭に入ってこない。
結局、ぼんやりしたまま座っていただけで、何一つ理解できていなかった。
「…チーフ、遠藤チーフ!」
「はっ、はいっ。
あ…山岡マネージャー…何か?」
「『何か』じゃないだろ。
お前、今の説明聞いてたのか?」
「…申し訳ありません。ちょっと体調が悪くて頭に入ってこなくて…」
「お前らしくないな…体調管理も成績の一つだからな。
しっかりしろよ!
ほら、これ。」
渡されたのは先程の詳細な資料だった。
「ありがとうございます!」
「これで一つ貸しだからな!」
山岡マネージャーは俺の肩を叩き、笑いながら行ってしまった。
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