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第765話

すっかり落ち着いた俺は『自分でやるから』と一応断ったのだが、斗真が珍しく 「今日は全部俺にさせろ。」 と言って聞かなくて、身体の拭き上げからドライヤー、そして着替えまで、本当に全部やってのけた。 俺も斗真のなすがままに、それらを受け入れた。 「身体があったまるから」 と、夕飯はキムチ鍋を作ってくれたのだが、これまた自分で食べさせてもらえず、子供みたいに口元まで箸を運ばれて…完食した。 流石に 「…斗真…やり過ぎじゃないか?」 とやんわりと抗議したが 「俺がやりたいんだから従え。」 構われ過ぎて何だか気恥ずかしくて、黙って頷き下を向いた。 一体何でこうなってるんだろう。 立ち位置がいつもと逆じゃないか! 俺様斗真様じゃないか! かっかと火照る頬を押さえ、悶々とそんなことを思っていると、頭をポンポンと撫でられた。 「片付けとくから歯磨きしておいで。」 まるで子供扱い。 斗真はそう言い残してキッチンに立った。 その後ろ姿を ちろんと睨め付けて、無言で洗面所に行った。 鏡に映った俺は…何故か満足そうに見える。 満ち足りた顔をしていたのだ。 斗真に一から十まで世話を焼いてもらい、俺の中の何かが満たされていたのだ。 そうか… 俺は斗真に甘やかされたかったのか… なーんだよ。 俺はただの甘えたじゃんか。 胸につかえていた物がストンと腑に落ちて、おかしくなってきた。 偶にはこうやって、でろでろに甘えさせてもらうのも良いもんだと、くすくすと一人で笑った。 甘えついでにとことん甘えてやろうか。 アイツ、どんな顔するだろう。

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