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第766話
俺がリビングに戻る頃には、斗真は片付けを終えたらしく、ソファーに座っていた。
「希、ここおいで。」
シートをポンポンと叩いて俺を呼ぶ斗真の隣に、素直に座った。
肩を抱かれ、頭を斗真の肩に寄せられた。
もう、くったりと体重を預けて甘える。
斗真は何も言わずに俺の髪の毛を弄っては、頭を撫で、俺も何も言わずにされるがままになっていた。
「明日、仕事行けるの?」
「うん。熱も下がったし…もう大丈夫。
明日からは行くよ。心配かけてごめん。」
「元気になったのなら、それでいいよ。
でも無理しないで。本調子じゃないなら、念のためもう一日休めばいい。
弁当は?」
「作ってくれるなら持って行く。」
「分かった。じゃあ作る。」
「うん。ありがとう。」
「…ちょっと早いけど、寝るか。
俺も歯磨きしてくるから、先にベッドに行ってて。」
「うん。」
俺の鼻先にキスをして、斗真が離れていった。
あ…寂しい…
視線が斗真を追っていく。
さっきまでここにあった温もりと匂いが、かき消すように無くなって、俺はその場から動けなくなっていた。
しばらくして戻ってきた斗真は、まだソファーに座っている俺を見ると、慌てた風に側に寄って来て抱きしめてくれた。
「どうした?先に行っててって言ったのに。
…一人で寂しかったのか?」
ぎゅうっと抱きついて、こくこく頷いた。
大好きな斗真の匂いが戻ってきて、俺は すんすんと鼻を鳴らしてその匂いを胸一杯に吸い込んだ。
あぁ。斗真の匂いだ。
くすくすっ と斗真は笑うと
「甘えん坊。」
ひと言だけ言い、俺の手を繋いで寝室へ連れて行った。
俺は繋がれた手をギュッと握り返して、後について行った。
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