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第769話
天気がどうだとか、新しく買ったスーツが気に入らなかったとか、取り留めのない会話が続く…いたって普通の朝。
「もし具合が悪くなったら、すぐ俺に言うんだぞ。いいな?」
「…分かった。」
子供を諭すように念押しされて、お前にとって俺は、一体何才の子供なんだ、と文句の一つも言いたくなるが、ここは素直に頷いておく。
心配してくれてるのが、ひしひしと伝わるから。
身支度を済ませ、いつもの時間に二人で出勤する。
「お昼も一緒に食べような。希、帰ってこれる?」
「うん!」
斗真と食べるご飯が待ち遠しい。
俺の愛する斗真は最高の嫁だと、叫んで回りたい。
会社の玄関で後ろから誰かが呼ぶのに気が付いた。
振り向くと…高橋…
俺の落ち込みの元凶の片割れ…
「チーフーっ!先輩!おはようございますっ!
その節はありがとうございました!」
「おっ、高橋、おはよう!
その顔色は…上手くいってるみたいだな。」
「はいっ、お陰様で!
…先輩のアドバイス、ほんっとーに役に立ちました!
…また教えて下さいね。」
はにかみながら、斗真にこっそりと伝える高橋。
何だか妙な色気が増してないか?
「おい、高橋。」
「はい、チーフ。何か?」
「…お前、その首筋の…絆創膏か何か貼っとけ。
女どもに見つかったら煩いぞ。」
「えっ!?ええっ!?嘘っ!本当に?」
「早く洗面室行って隠してこい。
これやるから。」
そう言って絆創膏を二枚手渡すと、高橋は何やらごにょごにょ言いつつ真っ赤になって
「すっ、すみませんっ!失礼します!」
と子鹿が跳ねるようにダッシュで行ってしまった。
斗真が笑いを堪えながら肩を震わせている。
人の失敗は蜜の味か?
お前も割とブラッキーなんだな。
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