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第770話

斗真は笑いを噛み殺しながら 「何か…初々しくって… なぁ、傍目から見たら、俺達も“あんなだった”のかな… うわぁ…小っ恥ずかしい…」 「って…じゃあ今は『結婚ウン十年目の倦怠期の夫婦』って言いたいのか? 俺はいつまでも新婚気分なんだけどな。心外だ。」 ワザと拗ねたような口調で言ってやった。 「そんな意味で言ってないじゃん。 何でそんなにつっかかってくるの? …希、まだ足りない?」 顔を覗き込まれ、ドギマギする。 「いや、その…うん、足りない。」 斗真は、はあっ とため息をつくと、それに対しての返事もせずに、黙って先に歩き出した。 愛想尽かされた? 嫌だ! 慌てて後を追い掛け、名を呼ぶ。 「とう」 くるん と振り向いた斗真は、とととっ と俺の側に駆け寄ると、辺りに誰もいないのを確認してから、唇を俺の耳に寄せてささやいた。 「帰ったらちゃんと構ってやるから。」 そしてまた、踵を返して先に歩き出した。 俺は火照る耳を手で押さえ、暫く立ち尽くしていたが、エレベーターの到着階を示すチャイムに我に返り、斗真の後を慌てて追い掛けた。 午前中は、いつものポーカーフェイスを保ちつつ、何とか挨拶回りを済ませてきた。 一人になると、時折へにゃりと顔が崩れるのを必死で元に戻しながら、帰宅後斗真に構ってもらえるのをあれこれと妄想していた。 そして休憩時間…斗真と打ち合わせしていた時間に、いそいそと食堂へ向かう。 斗真、何処かな…キョロキョロ探していると、いた! ん? 誰かと一緒? あの後ろ姿は…竹中さん!? 何で斗真と一緒にいるんだ? 俺に気付いた斗真が『おいでおいで』と手招きし、招かれるまま斗真達の所へ足を踏み出した。

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