770 / 1000
第770話
斗真は笑いを噛み殺しながら
「何か…初々しくって…
なぁ、傍目から見たら、俺達も“あんなだった”のかな…
うわぁ…小っ恥ずかしい…」
「あんなだったって…じゃあ今は『結婚ウン十年目の倦怠期の夫婦』って言いたいのか?
俺はいつまでも新婚気分なんだけどな。心外だ。」
ワザと拗ねたような口調で言ってやった。
「そんな意味で言ってないじゃん。
何でそんなにつっかかってくるの?
…希、まだ足りない?」
顔を覗き込まれ、ドギマギする。
「いや、その…うん、足りない。」
斗真は、はあっ とため息をつくと、それに対しての返事もせずに、黙って先に歩き出した。
愛想尽かされた?
嫌だ!
慌てて後を追い掛け、名を呼ぶ。
「とう」
くるん と振り向いた斗真は、とととっ と俺の側に駆け寄ると、辺りに誰もいないのを確認してから、唇を俺の耳に寄せてささやいた。
「帰ったらちゃんと構ってやるから。」
そしてまた、踵を返して先に歩き出した。
俺は火照る耳を手で押さえ、暫く立ち尽くしていたが、エレベーターの到着階を示すチャイムに我に返り、斗真の後を慌てて追い掛けた。
午前中は、いつものポーカーフェイスを保ちつつ、何とか挨拶回りを済ませてきた。
一人になると、時折へにゃりと顔が崩れるのを必死で元に戻しながら、帰宅後斗真に構ってもらえるのをあれこれと妄想していた。
そして休憩時間…斗真と打ち合わせしていた時間に、いそいそと食堂へ向かう。
斗真、何処かな…キョロキョロ探していると、いた!
ん?
誰かと一緒?
あの後ろ姿は…竹中さん!?
何で斗真と一緒にいるんだ?
俺に気付いた斗真が『おいでおいで』と手招きし、招かれるまま斗真達の所へ足を踏み出した。
ともだちにシェアしよう!