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第772話

もぐもぐと。ひたすらもぐもぐと口を動かす俺を早々に食べ終えた斗真がじっと見つめている。 やっと食べ終えた頃を見計らって、斗真が口を開いた。 「希。」 名前を呼ばれてビクッと身体が跳ねた。 「何度言えば分かってくれるの? 『俺にはお前だけだ』 どうやって証明したら信じてくれるの? それとも、俺のこと信用できない?」 悲しげな声音に、俺は視線を外すこともできず、黙って斗真を見ていた。 「………………」 口を開きかけたが、また(つぐ)んだ。 それを何度か繰り返し……斗真はそんな様子の俺をじっと見つめて、俺が何か言い始めるのを根気よく待っていたが、痺れを切らしたのか 「…昼休み終わるから先に行くね。」 そう言い残し、席を立って行ってしまった。 その背中が見えなくなると、自己嫌悪と寂寥感に苛まれ、身体が震えてきた。 おかしい。 メンタルがヤバい。 斗真が他の男と話してるだけでこんなになるなんて。 両手を握り込んでその震えを耐える。 俺以外に誰もいなくなっていたのが幸いだった。 震える腕を指先を必死で擦っていた。 どのくらい擦っていたのだろうか。 漸く震えが治まる頃には、昼休みもとっくに終わっていて、俺はふらりと立ち上がるとため息をついて歩き出した。 どうしよう。 医者に行ってこようか。 とぼとぼと俯いて歩いて行くと、角を曲がった所で誰かに打つかりそうになり、避けきれず転びそうになったところを抱きとめられた。 「すっ、すみません。」 慌てて離れようとして気付いた、嗅ぎ慣れた香りと馴染んだ筋肉の感触。 まさか… 「希、大丈夫か?」 「斗真…」 一番会いたくて触れたくて抱きしめたくて甘えたいひとがそこにいた。

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