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第773話

俺を立たせて、心配そうに下から見上げた斗真は 「…なかなか帰って来ないから、様子を見にきたんだ。 顔色悪いぞ。本調子じゃないだろ。 今日無理して出勤するからだよ。 もう、帰って寝てろ。 俺、定時で上がるし、帰ったらご飯作るからイイ子で休んでろ。 いいな。」 反論する気力もなく頷いた。 それよりも斗真が俺のことを気にして来てくれたことの方がうれしかった。 俺の今日の予定欄に『外出・直帰』のプレートを貼ると、鞄を持たされて、すぐ帰るように追い出された。 ご丁寧にタクシー代まで持たされて。 斗真の言う通りにタクシーで辿り着くと、冷蔵庫から水を取り出し一気飲みした後、バスルームに直行した。 温かなお湯に身を委ねてひと息ついていると、己の不甲斐なさに情けなくて頭が痛くなってきた。 何を疑って迷ってるんだろう。 斗真は一途に俺のことを思ってくれているのに。 何を怖がっている? 斗真は何処にも行かないし、俺の側をはなれないのに。 他の誰かに心を移すこともないのに。 痛む頭を押さえて身支度を整えると、言われた通りベッドに沈み込んだ。 斗真…早く帰ってきてくれ… 俺をギュッて抱きしめて… 混沌とする思考を振り切り、目を瞑り時間が経つのをひたすらに待ち続けた。 そのうち落ちてくる瞼の重さに耐え切れずに、意識を手放していた。 いい匂い。俺の好きな斗真の匂いがする。 ん?包まれてる? 目を開けると、斗真の心配そうな視線と打つかった。 「…斗真…」 「ただいま、希。気分はどう?」 「斗真見たら落ち着いた。」 「そりゃあ良かった。お腹は?」 「空いた。」 「じゃあ、食べよう。俺もお腹空いたよ。」 よいしょ、と起こされて手を繋いでキッチンに向かうとともに、美味しそうな匂いが立ち込めていた。 「はい、座って。」 お利口だと褒めてほしくて、言われるがままに座る。

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