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第780話
あの弱った希は何だったのか。
俺の勘違いもしくは夢を見ていたのかと、訝しむくらいに、希はすっかり“元の希”に戻っていた。
いや、それ以上に『できるオーラ』が増していた。
何かを自分の中で昇華したのか、開き直ったのかは分からないが。
仕事ぶりも鬼神が憑 かったかのように、ブイブイと進めていく。
飛ばし過ぎて大丈夫なのかと勘ぐるくらいに。
希の迫力に、取引先はNOと言えなくなっていた。提案する案件は全て希の思惑通りに契約がされていった。
強引?無茶?
「遠藤チーフ。」
「どうした?遠藤斗真君。」
「あの…大丈夫ですか?体調とか。」
「迷惑掛けて申し訳なかった。
もう、大丈夫だ。」
「あの。」
「他に何か?」
「そんなに飛ばして強引に進めて大丈夫なんですか?」
「問題ない。
100%俺の要求を通してる訳ではない。
相手にもメリットがあるように組んである。」
「そうですか。それならいいんですが。」
側から見たら笑いそうなくらい他人行儀な俺達の会話。
実際、横で聞いている水上は吹き出しそうになって、肩が震えている。
それを横目で睨み付け心の中で怒鳴っていた。
笑うな!
公私混同をしないと決めてる、俺達の最低限のルールだ!
消化不良を起こしたような顔の俺に、水上が腹を押さえながら、笑い過ぎて涙の溜まった目尻を拭きながら言った。
「…遠藤…お前ら面白過ぎ。
夫婦喧嘩の次の日の他人行儀な第一声みたい…
それにしても、すげぇな、チーフ。
あの人、やっぱり半端ねぇわ。敵わない…
はい、白旗!」
両手を上げてひらひらと振る水上に
「揶揄うなよ!
俺達は、会社では上司と部下なんだから当たり前だろ!」
「そうだったな、すまんすまん。」
「悪いと思ってもないくせに。」
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