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第784話
たったそれだけで、荒んだココロが一気に凪いでいった。
「…希…」
「うん、どうした?」
「いろんな考えのヤツがいるし、立場も環境も違うけど。」
「うん。」
「俺の考えは古いのかもしれないけど。」
「うん。」
「浮気は絶対に許せない。
するなら特定の相手を作るべきじゃない。」
「うん。俺もそう思う。」
両手を回して、希に抱きついた。
希も俺を抱きしめ返してくれる。
ここは会社だ。
誰か入ってくるかもしれない。
それでも、希にくっ付かずにはいられなかった。
暫くそうしていて、やっと落ち着いた俺は、そっと両手の力を緩めて少し離れた。
「…会社でごめん。もう大丈夫。」
「斗真は優しいから、傷付くであろう水上の奥さんに共感しちまったんだな。
でも、夫婦のことは本人同士にしか分からないから。
どちらにせよ、水上が蒔いた種だから、どんな結果になっても仕方がないよ。」
「…そうだな。何か、ごめん。
ちょっと感情移入しちまった。」
「急ぎの仕事もないし、今日はもう定時で帰ろうよ。
美味いもの食べて、ゆっくりして、抱き合って静かに眠ろう。
俺は斗真を補給したい。」
「俺も。晩御飯、何にしようか。」
「鍋でいいんじゃない?
ちょっと贅沢してカニなんてどうだ?」
「おおっ、カニ鍋!
そうと決まれば残りの仕事をサッサと終わらせよう!
誰かに捕まる前に帰らなくっちゃ。」
「ははっ、そうだな。
水上に絡まれる前にダッシュで帰るぞ!」
頭をポンポンと撫でられて、元気が出た。
俺って何て単純。
そこへ水上が戻ってきたが、俺は無視。
「遠藤チーフぅ…あのぉ、お願いがぁ…」
「仕事のことなら聞くが、何だ?」
「仕事じゃなくて…あのぉ」
「じゃあ聞かない。他を当たれ。」
ものの見事にバッサリ。
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