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第786話
怒り心頭の俺を宥めすかすように、希が俺を抱きしめ、背中を撫でてくれる。
「斗真、落ち着け。」
「…うん。」
「 ゴタゴタが落ち着くまで出勤させない。
っていうより、できないだろ。
それと…
相手の女も同罪だから、何らかの制裁はうけるだろう。
…既に総務のチーフの耳にも入っていたよ。
誰かから何かしらの情報でもあったのかもしれないな。
仕事はそこそこできる奴だったのに、惜しいな。もうこれで降格減俸、下手したらクビかも。
うちのボスは、そういったことに関してはかなり厳しいからね。」
俺は希の体温に癒されながら、ぼんやりそれを聞いていた。
「一応、水上の持ってる仕事の進捗状況を確認しておくよ。
もし約束事とかあったら困るからな。
尻拭いは全部俺だから。」
ちゅっ と掠めるようなキスの後、希は急に仕事モードの顔になった。
それでも名残惜しそうに温もりが離れていく。
デスクに戻る希を目で追いながら、俺も自分の席に戻った。
あぁ、さっきの電話は総務宛だったのか。
俺の怒りを受け止めながらも、相手の女の上司とも情報交換して、的確な判断と仕事のことまで考えてたとは。
流石希だ。
深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
俺は一時的な感情に揺さぶられて、冷静になってなかった。
水上の伴侶の受ける傷と悲しみの方に比重がいって、先のことなど全く頭になかった。
これがチーフになる男とそうでない男との差なんだな。
やっぱり、俺は希には敵わないよ。
もっと自分がしっかりしなきゃ。
それこそ、愛想尽かされて浮気なんかされないように。
そうだ。水上は反面教師だ。
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