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第790話

それから何回か、希は内線で呼び出されては部屋を出たり入ったりとバタバタしていた。 一時的な欲望と快楽のために、大切な人を傷付け、周囲を巻き込み迷惑を掛け不快にさせた。 中には、それを面白半分揶揄う奴もいるけれど。 実際、水上が暫く休暇を取ることで、彼の請け負っている仕事は、俺達に割り振られる。 仕事量が増えて負担が増す。今抱えてるものでさえ必死でこなしているのに、はっきり言って迷惑だ。 それはいいとしても、一度崩れた信頼関係は元には戻らない。 俺は古い頭の人間なのかもしれないが、“そういうことをする奴”を絶対に許せない。 実家の家族は、お互いの伴侶を愛し大切にしている。 それを間近で見ているから…それが当たり前だと思っている。 問題が片付いて、また復帰してきたとしても…俺はきっと今までのような付き合い方はしないと思う。 だから、今回の水上がやったことは認めないし受け入れられない。 軽蔑に値する。 さっき板野が言ってたっけ。 『子供がいないから、まだマシなのかもな。 親権やら養育費やら考えなくてもいいから。』 それもそうかも。 幼い心が壊れなくて済んだ、そう思えばまだマシなのかもしれない。 それでも、遣る瀬無い思いに潰されそうになりながら、俺のやるべき仕事を淡々とこなしていった。 もう、直帰の早退にしよう。 机上の書類を片付けて待っていると、眉間にシワを寄せた希が戻ってきた。 俺と目が合うと、険しい顔がふにゃりと崩れた。 うん、帰ろう。早く帰って二人っきりになろう。 話したいことはたくさんあるけれど、ただ、抱きしめ合おうよ。

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