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第791話

希が近寄ってきた。 「斗真、早退するぞ。」 無言で頷いて、希の後に続いた。 「「お疲れ様でした!」」 背中越しに「お疲れ様」の声を受けて、俺達はエレベーターに乗り込んだ。 「時間がないしタクシー呼んであるから、すぐ行くぞ!少し時間過ぎるかもって一応お断りしてある。」 「抜け目ないなぁ…いつの間に!?」 「そういうことは素早いのさ。 嫌なことを全て祓ってもらって、いい気分で今年過ごさなきゃ!」 一階に着くや、ダッシュで玄関の外に飛び出すと、待っていたタクシーに乗り込み行き先を告げた。 「…水上はどうなる?」 「ボスに任せてある。 女の方は、怒り狂った両親が退職させて実家に連れ帰るらしいし。 …田舎に引っ込んでも、あの男癖はそう簡単には治らないよ。 両親が気の毒だけど、そういう娘に育ててしまったんだから仕方がないよな。」 「そうか…まぁ、どっちも自業自得だからな。」 そんな話をしているうちに、大した渋滞にも巻き込まれず、目指す神社へ着いた。 予約時間に余裕で間に合ってほっとする。 流石に超有名参拝場所だ。 デカいし、こんな時間でも人が多い。 初詣気分のカップルも結構見受けられる。 外人も多い。ツアー客か? 社務所に直行して、予約していた旨を伝えると、穏やかな顔付きの神主がすぐに受付をしてくれた。 彼に案内されて、神殿へと向かう。 こっそりと希に 「結婚式以来だな、緊張する。」 と告げると 「そうだな。」 と、落ち着いた声で返された。ドキドキしてるのは俺だけか? 前から見えないのをいいことに、一瞬 きゅっ と手を握りしめられてから離された。 「ばっ、ばかっ!何やってんだ!」 小声で叱ったが、希は気にしない体で堂々としている。

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