805 / 1000

第805話

大した話もせずに、ひたすら麺を啜りチャーハンをスプーンで掬って口に放り込む。 腹が空いていたせいもあるが、早く帰って斗真と二人きりになりたい。 そんな思いで頭が一杯で気が急いて、無言になっていた。 「ご馳走様!」 人心地ついて店を後にした。 相変わらず寒い。北風が骨の芯まで染み込んでくる。 「斗真、早く帰ってあったまろ!」 「…うん。」 やはり元気がない。 次に目指すはケーキ屋だ。 確かこの辺りにも評判の店があったはず。 「斗真、寄り道するぞ、」 「え?何処に?」 「いいから、ついて来い。」 躊躇する斗真の腕を掴み、俺のポケットに突っ込んだ。 「どうだ?あったかい?」 「…うん。」 ポケットの中で指を絡めると、斗真は一瞬手を引いたが、おずおずとまた元に戻してきた。 少し歩くとイルミネーションに彩られた小さな店が見えてきた。 良かった、まだ開いてる。ガラス越しのショーケースに色鮮やかなケーキが並べられている。 品揃えは…うん、十分だ。 「希?この店…」 何の店なのかに気付いた斗真がうれしそうに俺の名を呼ぶ。 「ご機嫌取りじゃないぞ。 お前の喜ぶ顔が見たいから。」 「希…お前って俺を甘やかす天才だな。」 顔を見合わせてクスクス笑いながら店内に入ると甘い匂いが鼻を擽る。 「好きなの選べよ。」 破顔した斗真があれこれ悩み始め、そっとポケットから手を解放してやった。 耳元で「後でまた繋ぐからな。」とささやくと、ふにゃりと笑った。 「なぁ…ここの小さめだから、3個食べてもいい?」 「ちっさいおねだりだな。何個でもいいよ。 その代わり、明日から少し甘い物控えろよ。」 ペロリと舌を出して、ケースにへばりつかんばかりに真剣に悩む斗真を笑いを堪えて見ていた。

ともだちにシェアしよう!