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第819話

それから数日後、あれだけ大騒ぎをして周囲を巻き込んでの水上の浮気事件は終息を迎えた。 受付マリ嬢は自主退職。 地元の田舎に連れ戻されたそうだ。 水上の奥方より慰謝料を請求され、貯金を全て(はた)いても足りず、親に泣きついて不足分を払ってもらったとのこと。 お金がなければ遊ぶこともできず、両親親戚一同の監視の下、暫くは大人しくしているに違いない。 散々男達を手玉に取って、オイシイ思いをしてきた罰だ。 水上はというと…『今回だけ』という奥方の大温情により、離婚は免れた。 これで一生頭が上がらないだろう。 家族のためだけに働き、家族のためにその身を差し出す。 社畜ならぬ、本当の『家畜』だ。 社内の冷たい視線を浴びながら、定年まで働き続けなければならない。 ただの遊びがこんなことになろうなんて…『ほんの遊び』とうそぶいて、その時が楽しければ良かった二人にとっては、手痛い代償となった。 そしてその週末、宣言通り前川チーフから希宛に内線が掛かってきたのだ。 「遠藤チーフ、やっと片付きましたね。 急なんですが、今晩お二人でうちに来られませんか? うちの嫁が『ぜひに!』とうるさくて…私もお二人とゆっくり話がしたいですし。 あ、本人は興味本位ではないんです。 嫁が、聞いていただきたいことがあるらしくて…無理でしょうか?」 丁重に懇願された希は『前に聞いてて断ることができなかったから承諾した、事後承諾でごめん。』と謝ってきた。 「俺はいいけど…聞いてほしいこと、って何だろうな? 俺達になら“同性同士の恋愛について”だろうけど…前川チーフ絡みで誰かいるのかな…」

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