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第820話

首を捻りながら答えると 「うーん…身内でそういう人がいるのかもしれないな。 『定時ダッシュで玄関で待ち合わせ』って言われたから、誰に誘われても今日は無視して。」 「分かった。 でも、手ぶらで行くのもちょっと気が引けるんだけど…」 「そうだな、何か見繕ってくるよ…ちょっと抜けてくる。すぐ戻るから。」 「承知しましたチーフ。行ってらっしゃい。」 ワザとそう言うと、希はふふんと笑って俺の頭をくしゃくしゃと撫でて出て行った。 はあっ…お呼ばれか、気が張るな…ずっと忙しくて休めなくて…今夜はうちでのんびりしたかったんだけど… リップサービスだと思ってたのに、実現しちゃった。 まぁ、仕方ないか。希も承諾しちゃってたし。 何度かため息をついて、来週の予定のチェックを始めた。 そのうち、ぽつぽつと同僚達が戻ってきて片付けを始めた。 みんな今日は帰る気満々だ。 「なぁみんな、来週さ、水上に奢らせようぜ! 俺達を振り回した罰だ!」 なんて若山先輩が笑いながら言うと、同調して 「そうだ、そうだ!」 「お高いフルコースでも頼んでやろうか!」 「俺はステーキがいい!」 なんて声が上がる。 「まぁ、手痛い授業料を払ったんだから、ちょっとは賢くなったかもしれんな。 あんな奴だけど、今まで通りやっていこうや。」 「そうですね。」 「まぁ、悪い奴じゃないから。」 「女を見る目はないけど。」 等と揶揄いの混じった答えが返ってくる。 久し振りに家族サービスだとか、連休はゆっくりするぞとか言いながら、みんなそれぞれ片付けを始めた。 良かった…少なくとも、この部署の面子(めんつ)は色眼鏡で見ることはない。 その様子を見ながら、こんな風に俺達をも受け入れてくれてる彼らに感謝した。

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