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第821話

みんなが定時を待たずに急いで退社した頃、希が大きな紙袋を下げて戻ってきた。 「斗真、ごめん!待たせた!時間大丈夫か?」 「あと五分で定時!セーフだよ。」 「あれ?みんなは?」 「チーフもいないから、って定時待たずに帰っちゃったよ。」 「何だよ…でもまぁ、今日はいいか。 アイツらも頑張ったからな。」 「ところで何を買ってきたの? …うわぉ!凄い豪華!希、張り込んだな…」 紙袋を覗き込むと、何ともご立派な花のアレンジが入っていた。 「何にしようか迷ったんだけど…食事を呼ばれるのに、食べ物は失礼かなって。 形が残らなくて見栄えが良くて、尚且つ女性が喜ぶ物、って花しか思いつかなかったんだよね…」 「うん!いいと思う。しかし、凄いな…」 「なかなかのお値段だったよ。 前川チーフも俺達に好意的みたいだし、仲良くしておいた方が今後何かとやりやすいかな…って。」 「…計算高いな…ブラック希君。」 「味方は多い方がいいからな。 でも、腹を割って話せる人間が社内にいた方がいいから。」 「まぁ、確かにそうなんだけど。」 そう言いながらも、俺は『お礼』だと分かっていながらも、プレゼントの花をじっと見つめていた。 俺の視線が花から離れないことに希が気付いた。 「何?斗真…何か機嫌悪い?不服?食事のお礼なのに、まさかヤキモチ?」 「そんな訳じゃない!何言ってんの。」 「ごめん、ごめん。 何かヤキモチ焼かれてるみたいでうれしかったから…ごめんって。」 むうっ 図星だ。ヤキモチ焼いた。 俺以外の誰かに希が贈り物をするなんて…焼けた。 くすっ、と笑い声がして雄の匂いに包まれた。 「ばっ、ばかっ!会社で何すんだよっ!」 「あー、もうダメ…斗真、かわい過ぎる…」 「離せっ、ばかっ!」

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