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第828話

春菜さんは、ぐすぐすと鼻をすすりながら 「代理出産とか、養子縁組とか…考えつくことは色々考えたんです。 でも…」 「そういうの、私が嫌だったんです。 こう見えても、私は独占欲が強いらしくて…100%春菜に愛してほしいし、愛したい。 子供がいると、それは私にとっては100%にならない。 じゃあ、夫婦二人だけというのは気持ちが分散されなくていいんじゃないかと。 子供がほしくて結婚した訳ではなかったから。 本当に春菜のことが好きで好きで、愛し合って結ばれたんですから。 それに、春菜だけのせいではないんですよ。 調べてもらったら、私も普通の人よりも精子の数が少ないらしくて、妊娠させにくい体質だったんです。 それならば、と二人で生きていく決心をして、縁があってココアを迎え入れて… 今は二人と一匹で楽しく暮らしてます。 事情を知らない人達からは、 『子供はまだか』 『いい加減に作らないと後で酷いぞ』 とか色々言われますけれど、もう慣れました。 言わせておけばいいって。」 見つめ合い手を繋ぐ二人は、お互いの傷を優しく癒し、労り合っているように見えた。 赤ちゃんの部屋を失ってしまった女性と、そういう機能が元々ない俺と。 子供がほしくても、愛する男の種を繋いでいけないという思いがリンクした。 「斗真?」 「…斗真さん…」 希に頬を拭われて、泣いていたことに気が付いた。 「…俺も…俺も…希の子供を産めない自分を責めたし、悩んだんだ… 別れも覚悟した。こんな俺が希の側にいていいのかって。 でも、希が…『斗真がいい、一生離れるな』って言ってくれて…ぐっ…うっ」 込み上げる感情を押さえ切れず、嗚咽で声が出なくなった。

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