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第829話

希が俺の肩を抱き寄せ、片方の手でしっかりと俺の手を握ってくれた。 人前で何すんだ、って気持ちは瞬時に何処かに消えて、俺を包んでくれる希の愛を全身で感じていた。 この温もりがあれば、俺はどんなことでも喜びを感じて、辛いことも乗り越えていけるんだ。 きっと前川チーフ達も同じなんだろう。 暫く、俺と春菜さんの静かな嗚咽が続いて… 希の愛と体温で落ち着きを取り戻した俺は謝罪した。 「…すみません、泣くつもりなかったのに。 お気を悪くされたのなら申し訳ありませんでした。」 春菜さんはふるふると首を振り、目尻に溜まった涙をティッシュで拭うと 「いいえ。 斗真さん…私達、親友になれそうですね。」 と、赤い鼻と目のまま微笑んだ。 俺も頷きながら答える。 「こんなヤローですけど、よろしくお願いします。」 ふふっ くっくっくっ はははっ 和やかな笑いが起こり、それからまたプライベートなことやら社内のことやらで盛り上がり、瞬く間に時間が過ぎていった。 「すっかり遅くなってすみませんでした。 良かったら、今度はうちに来て下さい。 大したおもてなしはできないけど、美味い酒はありますから。 明日チーフに、例のエステのオーナーの名刺送っときます。」 「あ、ココアちゃんもぜひ! お待ちしてます。 従兄弟さんに喜んでもらえるといいですね。」 「ありがとうございます。 お引き留めしてしまって申し訳ありませんでした。 今後もプライベートでも仲良くして下さいね。 今度ぜひお邪魔させて下さい。」 「斗真さん、レシピ、二、三日内に送りますね。 それと…本当にありがとうございました。」 それぞれに握手までして一階まで降りて来ようとするのを、ここでいいから、と制してお暇した。 下降するエレベーターで希にもたれかかる。 俺の頭を撫でる手の平が心地いい。

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