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第830話
ふと見上げた天井の隅に防犯カメラがあることに気が付いた。
慌てて離れようとした俺の肩を引き寄せた希が、心配そうに尋ねてきた。
「どうしたの?」
「ごめんっ!忘れてた。防犯カメラ…」
あぁ、と呟いた希は
「別にいいじゃん。何も悪いことしてない。」
とまた俺を抱き寄せた。
「俺達、夫夫だぜ。
カメラに映ろうが何だろうが、後ろめたく思うことなんてこれっぽっちもない。」
そう言いながら、更に密着してくる。
「それはそうだけど、映ってるから止め、んっ」
キス!キスしてきやがった!バカ希!
抵抗しているうちに一階に着いた。
はぁはぁと息を切らせる俺を尻目に、希は手を引いて、待たせてあったタクシーに乗り込んだ。
行き先を告げ、俺を見つめた希は
「お前がまた泣きそうだったから。」
とひと言だけ言って、ギュッと手を握ってきた。
そして無言のまま、真っ直ぐ前を向いていた。
俺はまた泣きそうになっている自分にやっと気が付いて、握られた手の指を絡めると、それに気付いた希から絡め返してくる指先から愛を感じて、満ち足りた気分になっていた。
タクシーを降りてからまた手を繋ぎ部屋まで辿り着いて、玄関のドアを閉めた瞬間、希に抱きしめられた。
「斗真、そんなにまだ辛いのか?
俺にまだ遠慮する気持ちがあるのか?
俺は、お前が側にずっといてくれたらそれでいい。お前もそうじゃないのか?」
「…ごめん…春菜さんの気持ちにリンクしちゃって…俺は、俺はお前が側にいさせてくれたらそれでいいんだ。
…ごめん、希…ごめん、んっ」
早急に割られた唇をこじ開けて、熱い舌が捻じ込まれる。
あぁ…この感触、この味…希だ…
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