830 / 1000

第830話

ふと見上げた天井の隅に防犯カメラがあることに気が付いた。 慌てて離れようとした俺の肩を引き寄せた希が、心配そうに尋ねてきた。 「どうしたの?」 「ごめんっ!忘れてた。防犯カメラ…」 あぁ、と呟いた希は 「別にいいじゃん。何も悪いことしてない。」 とまた俺を抱き寄せた。 「俺達、夫夫だぜ。 カメラに映ろうが何だろうが、後ろめたく思うことなんてこれっぽっちもない。」 そう言いながら、更に密着してくる。 「それはそうだけど、映ってるから止め、んっ」 キス!キスしてきやがった!バカ希! 抵抗しているうちに一階に着いた。 はぁはぁと息を切らせる俺を尻目に、希は手を引いて、待たせてあったタクシーに乗り込んだ。 行き先を告げ、俺を見つめた希は 「お前がまた泣きそうだったから。」 とひと言だけ言って、ギュッと手を握ってきた。 そして無言のまま、真っ直ぐ前を向いていた。 俺はまた泣きそうになっている自分にやっと気が付いて、握られた手の指を絡めると、それに気付いた希から絡め返してくる指先から愛を感じて、満ち足りた気分になっていた。 タクシーを降りてからまた手を繋ぎ部屋まで辿り着いて、玄関のドアを閉めた瞬間、希に抱きしめられた。 「斗真、そんなにまだ辛いのか? 俺にまだ遠慮する気持ちがあるのか? 俺は、お前が側にずっといてくれたらそれでいい。お前もそうじゃないのか?」 「…ごめん…春菜さんの気持ちにリンクしちゃって…俺は、俺はお前が側にいさせてくれたらそれでいいんだ。 …ごめん、希…ごめん、んっ」 早急に割られた唇をこじ開けて、熱い舌が捻じ込まれる。 あぁ…この感触、この味…希だ…

ともだちにシェアしよう!