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第838話

こんな時間に大騒ぎして隣近所は大丈夫だったのだろうか。 そんなこと何にも考えなしで、希と大騒ぎしてしまった。 もしクレームが入れば、管理会社から何か言ってくるだろう。 「斗真、どうした?」 「いや…さっき調子に乗って大騒ぎしたから、何処かからクレームがきたら大変だな、って思って…」 「あぁ、大丈夫さ。 もし直接何か通知が来ても『以降気を付けます』って頭下げておけばいい。 毎日バカ騒ぎしてる訳ではないんだから。 俺達品行方正の住人だし、『音のクレームはどの部屋だか分からないからお気を付け下さい』の掲示文書が一階に貼られるだけだよ。 …それより斗真…ベッドに行こう…」 甘い声が鼓膜を震わせ、柑橘系のフレグランスが鼻を擽った。 背中を抜ける甘美な痺れに、膝が崩れ落ちそうになる。 希に腕を取られ、抱えられるようにしてベッドへ連れて行かれた。 「希、さっきヤったばかりだから、このまま抱きしめて寝てくれないか? 腰がもたないよ。」 「えーっ!?そんなぁ…とーまぁ…」 猫撫で声を出してもダメなものはダメだ。 身体を擦り寄せてくる大型犬の頭を優しく撫でながら 「希、明日から二日間休みだろ? 今晩ゆっくりしたら、明日また…な?」 いい子いい子と褒めちぎり、顔を動かせる範囲で、ちゅっちゅっと軽いキスを幾つも散りばめる。 段々と希のご機嫌も復活してきたらしい。 「…分かった。斗真、おいで。」 広げられた腕の中にすっぽりと収まると、俺の男の匂いを胸一杯に吸い込んだ。 それでも足りない、とすんすん鼻を鳴らして匂いを嗅いで、最後に唇を重ねた。 「斗真、かわいい。」 「大の男を捕まえて『かわいい』だなんて… そんな小っ恥ずかしいこと言わないでくれよ。 そんな単語、どっかに行ったからっ! お休みっ!」 最後は怒鳴るように顔を伏せた。

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