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第840話
「…後悔しても知らないからな。」
ワザとそう呟くと
「後悔するくらいなら出会ってない。」
と真面目な声音が降ってくる。
もう、やっぱり敵わない。このスパダリには。
耳朶をがじがじと甘噛みされ、擽ったくて身を捩 って逃げを打つが、力強い腕で押さえ込まれて身動きできない。
「のーぞーみー」
呆れてため息混じりにその名を呼ぶと、今度はそこをしゃぶられる。
「んっ!擽ったいっ!やーめーろー!」
耳の中まで舌を突っ込まれて、本当にコイツは何やってんだと呆れながらも、纏わり付く希を渾身の力で引っぺがして、胸に抱き込んだ。
少しジタバタしていたものの、大人しくなった希の下半身に足を絡ませて、子供に言い聞かせるようにささやいた。
「ほら、もう遅いから寝るぞ。
明日…明日もこうやってぎゅっとしてゴロゴロして過ごそう。
お休み、希。」
「…お休み、斗真。」
やっと観念したか。
それでも希は、諦めきれないように俺の胸におでこを擦り寄せていたが、やがてその動きも緩慢になり、やがて小さな寝息が聞こえてきた。
俺も目を閉じて、今度こそ本当に“お休み”だからな、と心の中で念押しして目を閉じた。
愛された後の気怠さと快感の余韻が残る、満ち足りた心と身体。
もうちょっと愛されても良かったかな、なんて少し残念な気もする。
続きは明日だ。誘わなくても希がへばり付いてくる。
天気予報によると、明日は90%の確率で晴れ。
シーツの洗濯をしなきゃ、等という所帯染みた考えを振り解いて、俺はゆっくりと眠りの中に落ちていった。
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