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第843話
あ…マズい…忘れてた恐怖…消失感…陰鬱…憎悪…
いろんなマイナスの感情が、一気に雪崩れ込んできた。
咄嗟に握りしめた両手が震えている。
「斗真?」
俺の様子を見て不審に思った希が、覗き込んで俺の顔を見るなりハッと息を飲んだ。
「斗真っ!」
そのまま強く抱きしめられる。
「斗真!俺はここにいる!
今お前の側にいて、お前を抱きしめている!
だから、大丈夫、大丈夫だから…
俺を抱きしめて…」
俺の震える身体を撫で摩り、希が『大丈夫』『俺はここにいる』と繰り返し繰り返し囁き続ける。
ダイジョウブ
ダイジョウブ
イマダキシメテイルノハ ノゾミ
ココニイルノハ…ノゾミ
「斗真、ゆっくり息を吐いて…吐き切ったら吸って…もう一度、吐いて…吸って…そう、上手…もう一度…」
何度か深呼吸しているうちに、震えも治まってきた。
「…ごめん…大丈夫だ。
忘れてたのに、思い出しちゃった…」
「我慢しなくていい。
嫌な気持ちは全部吐き出せ。俺が全て受け止めて昇華させてやるから。」
「希…」
不甲斐なくも涙が溢れてくる。
歯を食いしばり嗚咽に耐える俺に、希が愛の言葉と一緒に語りかけてくる。
「斗真、俺はお前の全てを愛している。
どんなお前も全身全霊で愛している。
お前だってそうだろ?俺のこと、許して愛してくれているんだろう?
一生離さない。離れない。
だから、俺に全て委ねて飛び込んでこい!
命懸けで受け止めてやる。
お前の過去も現在も未来も、全て俺のものだからな。
斗真、斗真、愛してるよ。
不安ならずっと言い続けてやるから。
斗真、愛してる…」
俺の身体を抱きしめ、希が呪文をかけていく。
呪縛を解き放ち、一歩前へ歩き出すための魔法の言葉を。
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