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第845話

その後も優しく抱きしめられた希の腕の中で微睡み、再び目が覚めた時には、もうカーテンの外は明るくなっていた。 壁の時計に目をやると、9時を回っていた。 不思議なことに、昨夜の嫌な気分は何処かに消えてしまっていた。 お腹、空いたな… もぞりと身動きすると間髪入れず声がした、 「斗真、おはよう。」 「おはよう…起きてたのか?」 「ん…今目が覚めたとこ。お腹空いたな…作ってもいいんだけど、ちょっとドライブがてら走って、喫茶店のモーニングでもどうだ? 外に出たくなければ何か買ってくるよ。」 少し躊躇したが 「…分かった。じゃあ、支度する。」 「無理しなくてもいいんだぞ。」 「うん。」 もぞもぞと起き出してシャワーを浴び、顔を洗い着替えを済ませた。 何処に行くのか尋ねても『内緒』だと言って教えてくれなかった。 まだ外は寒くてそれでも天気がいいせいか、エアコンの効いた車内は程良く暖かい。 「何食べっかなー…焼きたてパンの食べ放題か、クラブハウスサンドも美味いらしいんだよなー。」 「あ、もしかして、総務の有馬さんにこの間教えてもらった所?」 「あー、バレちまったかー。うん、そうそう。 斗真行きたがってたからさ、連れて行ってやろうと思って。」 「やったー!マジお腹空いてきたー!」 ボウルにたっぷりのカフェオレとクラブハウスサンド…絶対美味いに決まってるよ!」 によによする俺を信号待ちで見た希が、そっと左手を俺の手の上に重ねてきた。 じわりと温もりと希の思いが伝わってきて、何だか突然胸一杯になって泣きそうになった。 慌てて顔を上げ窓の方を見て、目を瞬かせながら、涙を散らしていた。

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